願うは君が幸せなこと
七階に着くと、逃げるようにエレベーターから飛び出した。
ドアが完全に閉まった気配を背中で感じてから、上に向かったであろうエレベーターを睨みつけてみる。
「……何あの人!あんな言い方しなくてもいいじゃない!」
鬱陶しい、とでも言いたげな表情を思い出す。
あの人は一体何階で降りるのだろうか。
出来ることならもう会いたくない。せめて、あの眉間のしわを思い出さなくなるまでは。
ふうっと大きく息を吐いて、気を取り直して歩き出す。
私が所属しているのは、六階から八階までを占めている営業部だ。
今は七階で、営業補佐をしている。
補佐と言っても、私のアシスト次第で営業そのものの成績に大きく影響するので、今の仕事にはとてもやりがいを感じている。
「あれ、そういえば……」
さっきのあの人、どうして私が七階で降りるって知ってたんだろう。
一緒に仕事したこと、あっただろうか。
少し考えて、だけどどうしてもさっきの苛ついたような表情が浮かんでしまうので、もうあの人については考えないことにした。
営業一課と書かれたドアを開いて足を踏み入れる。
「おはようございます」
「おはよう」
既に出社している人達に声をかけて、自分もようやくデスクについた。
同時にパソコンの電源を入れて、それから上着を脱いでイスに引っ掛けた。
「おはよう祐希ー」
元気よく声をかけてきたのは、営業一課では唯一の同期、福島夏美(ふくしま なつみ)だった。
グレーのスーツに薄い水色のブラウスを着こなしている夏美は、とても明るい性格で、課内のムードメーカーのような存在だ。
「おはよう夏美。いつもより早いね」
「夜用事があって早く帰りたいんだー。ちょっと前倒しで仕事しようかと思って」
「そうなんだ?私も今日は早く帰れるように頑張らないと」
「あ、デート?」
夏美がにんまりと笑いながら、冷やかすように尋ねてくる。