願うは君が幸せなこと
「で、どうする?」
「……え?」
ファイルを胸に抱きかかえながら、千葉さんと目を合わせた。
予想通り千葉さんは、右側の口角を上げて不敵に笑っていた。
私がずっと憧れてきた優しい笑顔をする千葉さんと、目の前の人が同一人物だなんて信じたくない。
「別れる?俺はどっちでもいいからさ、祐希が決めてよ」
一瞬、息が止まった。
どっちでもいい?
私が許すなら、このまま浮気を続けていくってこと?
別れたってどうでもいい?
そもそも、受付の子と別れるという選択肢は千葉さんの中にはこれっぽっちも無い。
今まで私はこの人の何を見てきたんだろう。
何を信じて、どこに惹かれて、いつ幸せだったんだろうか。
手が震える。
鼻の奥がツーンとして、目頭が熱くなる。
だけど意地でも泣きたくない。
「……別れ、ます」
「そう。じゃあこれからは、ただの先輩と後輩としてよろしくね」
こんなにもあっけなく終わるなんて。
千葉さんにとって自分は一体何だったのか。
「……ひとつ、聞いてもいいですか」
「何でもどうぞ。最後だしね」
「千葉さんは、私のこと、好きでしたか」
勇気を出してそう尋ねる。
声が震えてしまわないように喉に力を入れた。吐き気がした。
すると、くすっと笑う声が聞こえて、私の心臓はキシキシと音を立てた。
耳を塞ぎたい衝動に駆られて、聞かなければよかったと思った。
いっそのことこのまま逃げ出してしまおうかと思った時、資料室のドアが開く音がした。