願うは君が幸せなこと
驚いて振り返ると、開いたドアにもたれかかるようにして立つ人がいた。
千葉さんも驚いているようで、目を丸くしている。
「大事な話なら鍵かけといたほうがいいんじゃないの」
吐き捨てるようにそう言ったその人物は、普段は二十階で仕事をしているはずの月宮湊だった。
「つ、月宮さん……?」
「悪いけど、資料室に用事があるのはお前らだけじゃないから。さっさとどいてくれない」
苛ついたような顔で冷たい言葉を投げかけてくる月宮さん。
だけど今の私にとっては、思いもよらない助け舟だ。
「……よく会うね。偶然かな」
冷静さを取り戻したらしい千葉さんが、また笑った。
「そう思えないならどうぞご勝手に。あ、昨日はお取り込み中に邪魔したみたいで。どうもすいませんでした」
対照的に、月宮さんはにこりともせずにピシャッとそう言い放つ。
それが癇に障ったのか、千葉さんは少し笑顔を崩して、それから私の顔を見た。
「じゃあ俺は戻るよ。ゆう……瀬名さん、ファイル持って行ってあげようか?」
「…結構、です」
そう、と呟いた千葉さんは、軽く手を上げて資料室を出て行った。
すれ違いざま、月宮さんを睨みつけていったように見えた。
千葉さんが居なくなって、一気に緊張が解けたのか、思わずその場にへたりこんでしまった。
同時に、ファイルをギュッと握りしめる。
「……あんな奴にまんまと騙されて」
月宮さんが言った。
何がわかるの、と思った。
私が今どんな気持ちなのか、月宮さんには絶対にわからない。理解出来ない。
「……ほっといてよ。資料室に用があるんでしょ。さっさと済ませて出て行ったら?」
静かに、ゆっくりと月宮さんが私の目の前まで歩いてきた。
しゃがみ込んでいる私を、上から追い討ちをかけるように馬鹿にして。