願うは君が幸せなこと
「昨日言ってたあれ、違ったな」
あまり抑揚のない口調で話しかけてくる。
淡々と、私がどれだけ間抜けなのかを教えられているみたいに感じる。
「付き合ってるのを秘密にしてるのは、自分を想ってくれてるからだって。他の女達に恨まれないように、考えてくれてるんだって」
「……うるさい」
「でも実際は、二股かけてるのがバレないようにだった」
「やめて」
「お前は千葉さんの中で”付き合ってないもの”として扱われてたんだ」
「やめてよ!」
顔を上げて思いっきり睨みつけた。
悔しい。こんな口の悪い感情が欠落したような男に、どうして惨めな思いをさせられなきゃいけない?
「だから」
ふいに月宮さんがしゃがんで、私と目線を合わせた。
月宮さんの目は真っ直ぐで、怒りにも悲しみにも、何にも染まっていなかった。
「あんな最低な男と別れられて、よかったな」
しっかりと目を合わせながらそう言われた瞬間、張り詰めていたものがプツンと切れた。
気がつくと、頬が濡れていて、次から次へとポタポタ落ちていた。
千葉さんがいた時は懸命に堪えていた涙が、今は堪えることも忘れてただひたすら流れていく。
昨日から、月宮さんには情けない姿ばかり見られている。
だけどどうでもよかった。
月宮さんの前では、聞き分けのいい女でいる必要も猫被る必要もない。
何故なら、きっと私のことを良く思っていないこの人に嫌われようがどうでもいいから。
ただ、今はそのことがとても有り難かった。
思いっきり泣かせてくれて、感謝すらするほどに。