願うは君が幸せなこと

「……ぶっさいく」

そのまま資料室でたっぷり15分程泣いた後、私のぐしゃぐしゃな顔を見た月宮さんの第一声がそれだった。
もはや何も言い返す気にもなれず、のろのろと立ち上がる。

「泣き過ぎて疲れた……」

「あ、昼飯食い損ねた。休憩時間あと十分ぐらいしかない」

そういえば、月宮さんはずっと側にいてくれた。
昨日のレストランでも思ったけれど、意外と律儀なところがあるらしい。
それとも、私が夏美の友達だからついててくれたのだろうか。

「ごめん、急いでコンビニ行って何か買ってこようか」

「いらない。それより休憩終わるまでにその顔なんとかして来たら」

そう冷たく言って、月宮さんがドアに手を掛けた。
あれ、と思った。

「資料室に用事があったんじゃなかったの?」

そう尋ねると、月宮さんの肩がピクッと動いて止まった。
背中を向けられているのでどんな顔をしているのかはわからない。

「もう終わった」

小さい声でそう言って、月宮さんはそのまま資料室を出て行った。

閉まっていくドアを眺めながら、何を考えているのかよくわからない人だと思った。
あまり自分のことを話したくないタイプの人なのかもしれない。
…人には散々酷いことを言うくせに。


だいぶ気持ちが落ち着いて来て、一人になった空間で天井を見上げた。

終わったのだ。
たった三ヶ月だったけど、本当に憧れていた人と付き合うことが出来て夢のようだった。
優しくされたり、胸がぎゅーっとなるような甘い気持ちになったりして、幸せだと思う時がたくさんあったと、冷静になってきた今は思える。

だけどそれも、もう全部おしまい。

悲しいし、きっと小さな傷はたくさん付いているけど、不安な気持ちのまま付き合い続けるよりずっと良い。
逆にこれだけハッキリと裏切られたら、傷が癒えるのに時間はそんなにかからない気がした。

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