願うは君が幸せなこと

定時で仕事を終えた私は、夏美が同じようにパソコンの電源を落としたのを横目で確認して、帰る用意を始めた。
休憩室に行った後はもうここには戻らずに、そのまま帰るつもりだからだ。

「お先に失礼します」

「お疲れ瀬名さん」

「お疲れー」

一足先に部署を出ることにした。
この時間はなかなかエレベーターが捕まらないことを知っているので、通路の端にある階段へと向かった。

途中、数人の社員とすれ違う。
七階のフロアには営業一課の他に営業二課、それに物販営業課がある。
営業一課が企業を対象とした法人営業、二課が個人を対象とした個人営業をすることで区別されている。

同じフロアで仕事をしていても、一緒に仕事をしている訳ではないので、実はほとんど話したことがない人ばかりだ。

だけどこのフロアですれ違う人達はみんな、清潔感に溢れていて、毎日きちんと身だしなみを整えてきているのが窺える。
そのことに、なんだか感動してしまうのだ。
誇りやプライドを持って仕事をしている人達ばかりなんだな、と解釈しているから。

そして、成績優秀な人、というのは雰囲気でなんとなくわかるものだ。
身近な人で言うと、まさに千葉さんがそう。
自信があって、堂々としていて姿勢がいい。
話したことがない他の課の人でも、なんとなくわかる。

そう考えると入社二年目の創くんは、確かにまだまだ今からなのだろう、と思うのだ。


今日の靴は格好付けていないので、階段を降りてもコツコツと音が鳴らない。

五階について、休憩室の自動販売機でミルクティーを買った。
仕事中なら缶コーヒーを選ぶけれど、今日はもう、夏美との話し合いを残すのみだ。

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