願うは君が幸せなこと
缶を開けたところで、夏美が休憩室に入ってきた。
「お疲れ」
「お疲れー。祐希何にしたの?ミルクティー?私もそうしよっかなあ」
自動販売機に小銭を入れて、夏美もミルクティーのボタンを押した。
二人で一番奥のテーブルに座った。
今のところ私達の他には誰もいないけれど、もし誰か来ても会話が聞こえにくい席だ。
窓から外を見ると、ビルを出て帰っていく人の姿が見えた。
「で、何があったの?」
夏美が身を乗り出しながら、早速本題を持ち出してきた。
月宮さんからは何も聞いていないのだろうか。
私は、昨日あの後月宮さんと二人で会社に戻ったこと、そしたら千葉さんの浮気現場を見てしまったことを夏美に話した。
夏美は知らなかったらしくとても驚いて、怒ったり悲しんだり、コロコロ表情を変えながら、真剣に話を聞いてくれた。
「……そんなことがあったの」
「すごいタイミングだよね。自分でもびっくり」
夏美にスラスラと話せたことで、自分が思ったより平気なことに気が付いた。
思い出しながら話すのはもっと辛いと思っていたのに、躊躇うことなく言葉は口からどんどん出てきた。
「夏美はあの時、私の為に千葉さんと一緒に会社に戻ったんだよね」
レストランから二人が抜けた時のことを言うと、夏美は頷いた。
「噂のこと、さりげなく聞き出そうと思って。でも駄目だった。見事にかわされちゃって」
「でもその気持ちが嬉しい。ありがとうね」
そう言って笑ってみせると、夏美は安心したように笑い返してくれた。
「それで今日のお昼、資料室で千葉さんと話してね、別れたんだ」
「えっ……」
「受付の子と別れるつもりはないみたいだし、どうする?って聞かれちゃった。どうするも何も、って感じ」
私があまりにも軽くそう話すから、夏美は驚いた顔をした。それから、ちょっと不思議そうな顔も。
「祐希は、平気なの?」
「ん?うーん…、想像よりはずっと平気みたい」
月宮さんが言ったように、別れて悲しい気持ちよりも別れてよかった気持ちがあるからかもしれない。