願うは君が幸せなこと
「実は、私と月宮は高校の同級生なの」
「ええ!?そうなの!?」
「て言っても、当時はほとんど話したこと無かったけどね」
夏美は笑いながらそう言った。
驚いた。同じ高校だった人と同じ会社に就職なんて、たまたまだったとしたらどれだけ確率の低いことだろうか。
でも確かにそれなら、職歴は違うのにタメ語で話していても何もおかしくない。
「私が入社してすぐ、たまたま会社で会ってびっくりしたの。それで話すようになったんだけど、あいつ口悪いし態度悪いし、いちいち腹立つのよね……」
そんな人に、夏美は一体何を相談しているんだろう。それか、月宮さんが相談してる側だろうか?
どちらにしてもちょっと想像がつかない。
夏美が自分から言ってこないということは聞かないほうがよさそうな気もする。
「ま、誤解がとけてよかったわあ。そんな勘違いしてたなんて本当にびっくりしたけど」
「あ、ねえ。もうひとつ聞きたいことがあるんだけど……」
「ん?なに?」
意味もなく、周囲に誰もいないことを確認して、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「月宮さん、私のこと前から知ってた?」
「えっ」
「昨日が初対面だと思ってたけど、もしかしたら違うのかなって」
少しだけ中身が残っている缶を握り締めながら、思ったままを尋ねた。
すると夏美は、どう答えようか迷っているように目を泳がせた。
「ど、どうしてそう思ったの?」
「だってあの人、私が七階で働いてること知ってたから。夏美が話したんじゃないの?」
「いや、えーと……話したっけなあ」
「なにそれ」
歯切れの悪い返事に疑問を感じる。
夏美が言ってないとしたらますます謎だ。あの人はどうして知っていたんだろう。
「……まいっか、どうでも」
だって今後、月宮さんと会うことなんてそうないと思うから。
そう思って呟くと、夏美は複雑そうな顔をしていた。