願うは君が幸せなこと
その時、営業一課のドアが開いて誰かが入ってきた。
「おはようございます」
「おはよう、千葉くん」
「千葉さん、おはようございます!」
千葉と呼ばれているその人は、社員達と爽やかな笑顔で挨拶を交わしながら、細身のスーツがよく似合う長い足で自分のデスクへと向かった。
イスを引いて腰掛けて足を組む、たったそれだけの動作が様になる彼は、甘いマスクで女性社員達を虜にするのが得意技。
丁寧にセットされた髪と、高そうな腕時計に、ピカピカに磨かれた革靴。
その全てが彼の為に存在しているかのように見え、圧倒的なオーラを放っている。
「祐希、千葉さん来たよ」
「う、うん」
そして信じられないことに、その完璧な男、千葉宗平(ちば そうへい)の彼女は他でもないこの私なのだ。
「話しかけに行かないの?」
面白がるような顔で脇腹をつついてくる夏美を、慌てて静止する。
「しーっ!私達が付き合ってるの、内緒なんだってば」
「まだ言うつもりないの?別に社内恋愛禁止じゃないんだから公表すればいいのに」
実は私と千葉さんは、内緒のお付き合いをしている。
私は夏美にしか言っていないし、千葉さんは多分誰にも言っていないと思う。
私はバレても構わないのだけど、千葉さんが内緒にしようと言ったからだ。
だけど秘密にしていて良かったな、と思うことが度々ある。
三つ先輩の千葉さんは社内でとても人気者で、いろんな部署の女の子達から注目を浴びている。食事に誘われたり、告白されたりなんてのは日常茶飯事だった。
その光景はまさに女の戦い。
うっかり付き合ってるなんて漏らせば、ただでは済まないかもしれない。
だからもしかしたら千葉さんは、私の為に内緒にしようと言ってくれたのかもしれない。
格好良くて仕事も優秀で、その上優しい。
そんな人と付き合えているなんて、夢のようだった。