願うは君が幸せなこと

「創くんが戻るの待ってようかなと思って。もうすぐだと思うし」

心配させないようにそれだけ言うと、夏美は納得したように頷いた。

「ああ、今日引き継ぎに行ってるんだっけ。朝から緊張してたよね」

「そうそう。創くんって思ってること顔に出ちゃうタイプなんだよねえ」

そう言いながら、小銭を自動販売機に入れた。
カフェオレか迷って、結局微糖のコーヒーのボタンを押した。

すると夏美が、思いついたように月宮さんを見て言った。

「あ、ねえ月宮。”伝説の営業マン”って知ってる?」

「……は?」

聞かれた月宮さんは、不機嫌そうに眉間にしわを寄せて夏美を見返した。

「営業一課にいる創くんって男の子がね、その人に憧れて仕事頑張ってるの。それが可愛くて可愛くて」

「……噂は聞いたことあるけど」

月宮さんは、少し嫌そうな顔をした。
千葉さんにこの話をしたときと同じような反応だったので、不思議に思った。

「開発部にも噂がいくほど有名ってことは、やっぱり伝説は伊達じゃないってことね!どんな人か気になるわあ」

「私もどんな人か気になる。きっと素敵な人だよね」

夏美の意見に同意しながらそう言った。
缶コーヒーを開けて一口飲むと、少し気持ちが落ち着いてきた。

「…馬鹿じゃねーの」

低い声でそう呟いたのは、月宮さん。
私と夏美は何事かと顔を見合わせた。

「何が伝説だよ、ただ運が良かっただけだろ。あんまりそうやって、見たこともない奴のこと持ち上げないほうがいいと思うけど?噂が一人歩きしてどんどん話が拡張されていく」

やっぱり月宮さんも千葉さんと同じように、伝説の人のことを良く思っていないようだった。
それどころか、認めないと言わんばかりだ。


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