願うは君が幸せなこと

「何がそんなに気に入らないのよ。実際に会ったことはなくても、それを目標にしてるおかげで仕事を頑張れてる人だっているんだから」

夏美が意味がわからないというように言い返す。
私が言いたいことを代弁してくれた。
実際に、創くんはその人を目標にしているからあれだけモチベーションが高いのだと思う。

「憧れだけで成績が上がれば誰も苦労しない。真似するんじゃなくて自分がどうするかを考えて自分だけのスタイルを見つけないと、営業なんて続かねえだろ」

月宮さんはぶっきらぼうにそう言った。
正直、とても驚いた。
口調はキツイが、月宮さんが言ったことは的を得ていたから。

月宮さんは持っていたコーヒーを飲み干して、近くにあるゴミ箱へと空き缶を投げ入れた。
ガシャン、と音がしたのと同時に立ち上がって、苛ついた表情を隠すこともせずに休憩室を出ていこうとする。

「帰るの?」

「ああ」

「待ってよ、私も帰るから」

夏美はそう言って、慌てて荷物を手に取った。
あの不機嫌な月宮さんとよく一緒に帰れるな、と感心してしまった。私なら絶対について行かない。

帰り際、こそっと夏美が話しかけてきた。

「なんであんな邪険にするんだろ、月宮には関係ないのにね。じゃあ祐希、また明日ね!」

手を振って出ていく夏美と、仏頂面の月宮さんを見送った。
一人ポツンと残されて、せっかく買ったコーヒーをほとんど飲んでいないことに初めて気が付いた。

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