願うは君が幸せなこと
創くん達が帰ってきたのは、私が七階に戻ったすぐ後だった。
「…!おかえりなさい、おそかっ……」
二人に駆け寄ろうとして、言葉に詰まる。
創くんが、今にも泣きそうな顔をしていたから。
取引先との話し合いが上手くいかなかったことは一目瞭然だった。
「創、お疲れだったな」
同行していた先輩が、創くんの肩をポンと叩いた。その先輩も疲れた顔をしている。
そして、まだ残っている課長のほうをチラッと見てから、もう一度創くんを見た。
「お前は課長に報告しろ。……瀬名、ちょっといいか」
「は、はい」
先輩にそう言われ、創くんを残して部署を出た。
すれ違った時、創くんは私の顔を見ようとしなかった。ただ俯いて、悔しさを滲ませているような気配がした。
「……何があったんですか」
尋ねると、先輩は周りに誰もいないことを確認して、声を潜めて話し始めた。
「創が、先方にちょっとキツく言われてな」
「何か失礼なことを?」
「そうじゃない。……ただ、任せる気にならないそうだ」
「任せる気に、ならない……」
それは、営業としての自信を木っ端微塵に打ち砕かれるような一言だ。
まだ新人で、必死で上を目指している最中の創くんにとっては、どれほどキツい言葉だっただろう。
先輩は壁にもたれて、腕を組んだ。
「創なりに、頑張ってたんだけどな。こればっかりは仕方ない」
「仕方ないって……」
「あいつ緊張してて。頼りなく見えたのかもしれない。印象を良くするための笑顔も、相手にはヘラヘラしてるように見えたかもしれない。それで先方が創には任せられないって言った時、あいつはショックで何も言えなくなっちまった」
その時の創くんの心情を考えると、胸が押し潰されるようだった。
きっと私には想像も出来ないほどショックだったと思う。