願うは君が幸せなこと

創くん達が帰ってきたのは、私が七階に戻ったすぐ後だった。

「…!おかえりなさい、おそかっ……」

二人に駆け寄ろうとして、言葉に詰まる。
創くんが、今にも泣きそうな顔をしていたから。
取引先との話し合いが上手くいかなかったことは一目瞭然だった。

「創、お疲れだったな」

同行していた先輩が、創くんの肩をポンと叩いた。その先輩も疲れた顔をしている。
そして、まだ残っている課長のほうをチラッと見てから、もう一度創くんを見た。

「お前は課長に報告しろ。……瀬名、ちょっといいか」

「は、はい」

先輩にそう言われ、創くんを残して部署を出た。
すれ違った時、創くんは私の顔を見ようとしなかった。ただ俯いて、悔しさを滲ませているような気配がした。

「……何があったんですか」

尋ねると、先輩は周りに誰もいないことを確認して、声を潜めて話し始めた。

「創が、先方にちょっとキツく言われてな」

「何か失礼なことを?」

「そうじゃない。……ただ、任せる気にならないそうだ」

「任せる気に、ならない……」

それは、営業としての自信を木っ端微塵に打ち砕かれるような一言だ。
まだ新人で、必死で上を目指している最中の創くんにとっては、どれほどキツい言葉だっただろう。

先輩は壁にもたれて、腕を組んだ。

「創なりに、頑張ってたんだけどな。こればっかりは仕方ない」

「仕方ないって……」

「あいつ緊張してて。頼りなく見えたのかもしれない。印象を良くするための笑顔も、相手にはヘラヘラしてるように見えたかもしれない。それで先方が創には任せられないって言った時、あいつはショックで何も言えなくなっちまった」

その時の創くんの心情を考えると、胸が押し潰されるようだった。
きっと私には想像も出来ないほどショックだったと思う。

< 45 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop