願うは君が幸せなこと
夏美と別れて一度家に帰ってから、夕方になって会社へとやってきた。
土曜日にもかかわらず休日出勤している人が何人かいる。
そういう私も、仕事をしに来たように見られているだろう。
七階に上がってみると、営業一課には誰もいなくて少し笑ってしまった。
とりあえず必要そうな物を鞄に入れていく。
”とっておきの相談役”とは、一体誰のことだろうか。
あの時、夏美は携帯で誰かに連絡していた。
ということは、夏美とある程度親しい人だと思う。
「……なるようになるか」
考えてもどうにもならない。
今私が出来ることをするだけだ。
壁にかかっている時計を見ると、六時まであと十分だった。
そろそろエントランスに降りておこうと、鞄を持って立ち上がる。
着替えずに私服のまま来てしまったので、大きな鞄がなんだか不釣り合いに見えるのは仕方ない。
仕事の時と違って下ろしている髪が邪魔で、耳にかけた。
エレベーターで一階に降りて外に出てみると、もう空が暗くなり始めていた。
正面入り口の自動ドアの前に立つ。
今思えば、相手の人は私の顔を知っているのだろうか?
そうでなければお互いに誰が待ち合わせの相手なのかわからなくなってしまう。
つい心配になっていると、向こうからこちらに近付いてくる人が見えた。
それが誰なのか気付いた瞬間、私の心配は余計なことだったとわかってしまった。
「………うそでしょ」