願うは君が幸せなこと

そんな素敵な人と付き合って三ヶ月。
まだちゃんとしたデートはほとんど出来ていないけれど、今日のように仕事の後に食事に行ったり、仕事中に目が合ったらこっそり笑い合ったり、それだけで充分幸せだった。

たとえ、嫌な噂を耳にしても。


「祐希、あの話千葉さんに確かめたの?」

夏美が声をひそめて、そう尋ねてきた。
私は曖昧に笑って首を左右に振ってみせる。

「早く聞いてみたほうが良いんじゃないの?」

「……うん、そうだね」


社内に嫌な噂が流れ出したのは、一週間ほど前からだった。
千葉さんが、受付嬢の美人の子と付き合っているという噂だ。

もちろんみんなは私との関係を知らないので、「ショックだけど美男美女でお似合いだよね」とか、「あの千葉さんに彼女がいないほうがおかしいよね」と悔しがりつつも祝福しているようだった。
だけど私にとっては、噂が本当なら、浮気されていることになる。

夏美は早く確認したほうが良いと催促してくるけれど、未だに出来ずにいる。

勘違いであって欲しいという願望がある。それにまだ付き合って三ヶ月、この幸せを壊したくないという気持ちも。

噂が本当なら振られてしまうだろうし、噂が嘘だとしても、疑ったことで軽蔑されて振られるんじゃないかと、怖いのだ。


「今日の夜に会う約束してるから、様子がおかしかったら聞いてみることにする」

「そっか。うん、それがいいかもね」

納得したように自分の席に戻っていった夏美を見送って、とにかく今日の仕事を終わらせることが最優先だと気持ちを切り替えた。

どうか、千葉さんがいつも通りでありますように。

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