願うは君が幸せなこと
「……」
「……」
向かい合って、とりあえず様子をうかがう、というより睨み合う。
相手の真意をお互いに探っているような感じだ。
夏美は一体どういうつもりなんだろう。
この人が相談役?会話続くの?
夏美の意図がわからなくて首を傾げる。
「福島のやろう……面倒なこと押し付けやがって」
「あの、何なら帰ってもらっても」
「は?せっかく来てやったのに?」
「ですよね………」
なんだかんだ、もう会わないもう会わないと言いつつよく会う人だ。
ただ、今回は偶然ではない。
いつものスーツ姿とは違ったラフな格好で現れたのは、月宮さんだった。
そういえば前に、夏美と月宮さんは相談相手なのだと聞いたことがある。
もしかしたら夏美は普段から、月宮さんに仕事の相談をしていたのかもしれない、と初めて思った。
どう話をしたらいいのかさっぱりわからない。
会社に入って休憩室とかで話すのがいいのか、それとも。
「あー、俺腹減ってんだよ」
「へっ?あ、そう」
「てなわけで行くぞ」
そう言って突然歩き出した月宮さん。
驚いて、慌ててその背中を追いかける。
「ど、どこに?」
「さあな」
私をからかうようにそう言った月宮さんの横顔を覗き込む。
なんだか、楽しそうに見えたのは気のせいだろうか。
夜のオフィス街を、月宮さんの後ろについて歩く。
こうやって夜道で見ていた後ろ姿は、最近まではいつも千葉さんのものだった。
今ではもう、見ることはなくなってしまったけれど。
その見慣れた千葉さんと、月宮さんの後ろ姿は全然違う。
千葉さんは、頭のてっぺんから足先まで気を配って歩くような人だ。月宮さんは正反対で、周りにどう思われようが気にしないタイプ。
だけど一つだけ同じなのは、二人とも堂々としている所だ。