願うは君が幸せなこと

「生二つ」

「あいよ!」


月宮さんと一緒にやってきたのは、あろうことか居酒屋だった。
店内はガヤガヤしているけれど、店の奥にある半個室のような席に案内されたのでそれほど気にならなかった。

「まずは腹ごしらえってこと……」

「あ、悪いけど俺は最初に会ったとこみたいな肩凝る店は苦手だから」

それは私も堅苦しいお店より気楽なお店のほうが好きだからいいのだけど、どうも言い方が嫌味っぽいのが気に触る。

「自分だってあのお店にいたんだから同じじゃない」

「福島に無理矢理連れて行かれたに決まってんだろうが。じゃなきゃ誰が……」

「?」

不自然に言葉を切られたのが気になるものの、どうやらそれ以上続ける気はないらしい。
ふいっと、視線を料理のメニューへと落としてしまった。

「何か選べよ」

「え、えーっとじゃあ……」

メニュー表を差し出されて反射的に受け取った。
私もお腹は空いているので、好きなものを頼むことにする。

「せせりポン酢と」

「と?」

「エイヒレ」

「お、いい趣味してんな」

どうやら好みが合ったらしく、月宮さんは僅かに笑った。
レアなその表情を思わず凝視してしまった。だって普段は眉間にしわを寄せてばかりだから、まるでパンダを見つけた時のように得をした気分になってしまったのだ。

「……なんだよ」

「笑ったなと思って」

「はあ?俺だって笑う時ぐらいあるわ」

失礼な女、と呟いたその顔は、もういつもの仏頂面へと戻っていた。
それが面白くなくて、運ばれてきたビールをぐいっと飲んだ。

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