願うは君が幸せなこと

こうして月宮さんと食事をするのは、初めて会った日のことを数に入れるなら二回目だ。

その時は、ただ私が食べていただけなのでわからなかったけど、月宮さんは食べる動作がとても美しい人だった。
多分本人は何も考えていないと思うけど、口の悪さと動作が不釣り合いでちょっと可笑しい。

「お前、あれからどうなってんの」

ふいに、月宮さんがそう尋ねてきた。
この人と二人で食事だなんてどうなることかと思っていたのに、意外と会話が途切れないことに驚いている。

「なんのこと?」

「千葉さんと」

「あ、そのこと」

今思えば、千葉さんとの件に関しては随分と月宮さんに助けられた気がする。
ちゃんとお礼も言えていない。

「どうもなってないよ。別れて、それでおしまい」

「……いいのか?」

月宮さんなりに心配してくれているのだろうか。
いつもよりも、声のトーンが穏やかな気がする。

「自分でもびっくりしてるけど、意外と平気なの。未練もないし後悔もないかな」

「……あっそ」

「ま、まあ、色々とカッコ悪い所見せちゃって、その……」

「あ?なんだよ」

「あ、ありがとう」

結構勇気を出して改めてお礼を口にすると、月宮さんは少しの間固まった。
そして、さっきの僅かな笑いよりももう少しハッキリと笑った。
今まで私が見た中で一番、優しい表情だった。
それを真正面からバッチリ見てしまって、今度は私が固まる番だった。

……改めてまじまじと見てみると、月宮さんは世間でいう所謂男前というやつなのかもしれない。
イケメン、という言葉はとてつもなく似合わないので、あえて男前と表現しておく。

黙っていれば、端正な顔立ちにクールな雰囲気、それに堂々とした立ち振る舞いで、モテそうな人っぽいのだ。
ただし、一度口を開けば残念ながらそのイメージは崩れるのたが。


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