願うは君が幸せなこと

「———なるほどな。ついに恐れてたことが起きたってわけだ」

「なんとか先輩のフォローで契約は持ちこたえたんだけど、創くんは相当落ち込んでるみたいで」

「そりゃそーだろうな。逆にそれでケロッとしてたら大物か馬鹿のどっちかだ」

話を聞き終えた月宮さんは、背もたれに体を預けて腕を組んだ。そして納得したように頷いている。
私は、そんな月宮さんが何をどんな風にアドバイスしてくれるのか、不謹慎だけど少し楽しみになっていた。

開発部というと、専門的な知識を頭に詰め込んだ人達の集まり、というイメージがある。
その中でもシステムエンジニアは、選りすぐりの精鋭達だ。
機械にめっぽう強い彼らは、あまり私達営業部のような愛想笑いや社交辞令を好まない。
確実性や永遠性のない目に見えない”人間関係”よりも、白黒はっきりしていて嘘がない”数字”を信頼しているのだろう。

いわば私と月宮さんとの会社での立ち位置は、正反対だといえる。

そんな月宮さんが今、私と向き合って、私の話を真剣に聞いてくれているのだ。
その事実に、少なからず喜びを感じてしまった。

「今から言うことは、あくまで俺の考えだ。もちろん人によって考えは違うし、俺の意見を間違いだっていう人もいる。それを踏まえた上で聞くこと」

「は、はい」

自分の意見が絶対ではないんだと念押しをしてから、月宮さんは切り出した。

「じゃあまず。営業する上で大事なことは、相手にどう思わせるか、だ」

「まあ、それは。表情とか言葉遣いで左右されるよね」

「そう。もちろん第一印象でいい印象を持ってもらうのは大前提な。その上で、相手になめられないこと」

「なめられないこと?」

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