願うは君が幸せなこと
「夏美が相談役って言う理由、わかるなあ」
「あいつ、一回仕事の相談聞いてやってから頻繁にしてくるようになったんだよな。面倒くさいって言ってんのに」
そう言いつつも、ちゃんと毎回聞いてあげてるんだろうな、と思った。
月宮さんは基本遠慮がない。
だからこそ、嘘偽りなく言葉を返してくれる。
それを知ってしまったらもう、この人がどんな受け答えをするのか、何を考えているのか、知りたくてワクワクしてしまう。
月宮さんに相談していなかったら、私の中でこの人はただの口の悪い男で終わっていたかもしれない。
きっと、誤解されやすいんだろう。
「月宮さん」
名前を呼びかけると、突然呼ばれて驚いたのか、月宮さんが目を見開いた。
それから持っていた箸を落としそうになって、慌てて握り直していた。
「……また何かあったら相談してもいい?」
「え、無理」
「な、なんで!?」
「言ってんだろ。面倒くさい」
……やっぱりまだ、ちょっとムカつく。
言い返す言葉が見つからなくて、心の中で思いっきり舌を出してやった。
「……まあ、たまにならな」
「!ほんと!?」
「そのかわり」
突然、ぐいっと身を乗り出して顔を近付けられた。
今までで一番近い距離に月宮さんの顔があって、ああやっぱり男前なんだなあとぼんやり思った。
「また居酒屋付き合えよ、祐希」
「!!?」
ぼぼぼっと音が聞こえそうなほど、自分の顔が一気に熱くなるのがわかった。
すぐ目の前にいる、楽しそうに笑っている月宮さんから目が離せなくなって、途端に恥ずかしくなってきた。
「な、なんで下の名前…!?」
「あ?文句あんのか?」
「え、いや、ないけど……」
「ははっ!ないんだ」
笑いながら身を引いて、ビールを飲む月宮さん。
不意打ち過ぎた。顔の熱がなかなか引いてくれそうにない。
色んな一面を見せてくる月宮さんに、いとも簡単に振り回されてしまったことが、少しだけ悔しい。
この人には、まだまだ私の知らない顔がきっとたくさん隠れている。
それを全部暴いてやりたいと、強く思った。