願うは君が幸せなこと

朝一で行われた会議では、主に先月の成績や繁忙期へ向けてのことが話し合われた。
普段はあまり話す機会がない営業二課の人も一緒になって、真剣に意見を交換していく。

私はこの時間がとても好きだ。
自分もこの大企業の一員なのだと、再確認することが出来るから。

二時間ほど続いた会議の最後に、一課の課長が立ち上がった。

「急で悪いんだが明日から一週間、関西支店の部長が来ることになった。ただ視察に来るだけらしいんだけどな、それぞれ対応頼む」

すると、それを聞いていた千葉さんが手を挙げた。

「ちょっといいですか。関西支店の部長ってもしかして井山部長ですか」

「お、そうか千葉は井山部長と一時期組んでたんだっけか」

「はい」

誰のことだろうかと、キョトンとしている社員がほとんどだった。
もちろん私もその中の一人だ。
それに気付いたのか、課長が説明をしてくれた。

「井山部長は、俺の前にこの本社で営業一課の課長をやってた人だ。転勤をきっかけに部長になったらしい」

千葉さんが課長の言葉に頷いて、後に続けた。

「俺が入社三年目になった時に、当時課長だった井山さんと一緒に仕事をする機会があったんです。半年後に井山さんが転勤するまで、営業のノウハウを教えてくれました。今の俺があるのは井山さんのお陰です」

それを知らない社員から、へえっと声が上がった。
私が入社したのは千葉さんが四年目の時なので、私も初めて聞く話だ。
もちろん、井山さんの顔も知らない。

「そうだ、井山部長は凄腕の営業マンだったらしい。今は部下の面倒ばっかり見てるらしいけどな。そういう訳でみんな失礼のないようにな。はい、解散!」

課長がパンっと手を叩いたのを合図に、会議が終了した。

あのエリート営業マンの千葉さんを育てた敏腕部長だなんて、ぜひ話を聞いてみたい。
そして、もしかしたらその井山部長が、あの伝説の人かもしれないと、密かに思った。

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