願うは君が幸せなこと
翌日、本社にやって来た井山部長は、今の課長に負けず劣らずの豪快な人だった。
「俺のことは気にしなくていいからね〜!あ、ねえそれ、先月の結果?ちょっと見せて」
営業部のフロアをうろうろ歩き回りながら、それぞれの仕事を観察しては話しかけてくる。
私もさっき、誰の補佐をしているのかいきなり聞かれた。
井山部長が今度は二課のほうへと向かっていく。
それを見て、夏美がこそっと話しかけて来た。
「あれで気にするなっていうほうが無理よね」
「あはは…」
「でも優秀な人っていうんだからね。あれも私達から情報を集めるっていう井山部長なりの作戦なのかも」
そう言われればそんな気もしてくる。
課長はそんな井山部長にタジタジのようで、普段の豪快さを失くして小さくなっている。
少し面白くて、バレないように笑った。
「千葉さん、生き生きしてるよね」
「確かに…」
恩師に会えて嬉しいのか、いつにも増して仕事のペースが速い千葉さん。
今日から一週間はずっとあの調子なのだろう。
最近ではもう、千葉さんを見ても何も思わなくなってきた。
元々、未練とかそういうものは無かったけれど、少なからず傷付いてはいたのだ。
だけどその傷もすっかり癒えたのか、振られたことや浮気されたことを振り返らなくなった。
夏美もそれをわかっているのか、私に千葉さんの話をすることを遠慮しない。
それがなんだか嬉しかった。