願うは君が幸せなこと

お手洗いに席を立った後の部署への帰り道、エレベーターの横辺りに井山部長の姿が見えた。
こんな所で何をしているのかと様子を伺うと、どうやら誰かと話し込んでいるみたいだった。

覗き込んで見て、咄嗟に身を引いて隠れた。
その相手が月宮さんだったからだ。

「お前ももう八年目か!早いな〜!」

「まあ、そうですね」

「今何やってんだ。あ?エンジニア?なんでまた」

そんな会話が聞こえてきて、二人の仲がかなり良いことがわかる。
営業部の課長だった井山さんと開発部の月宮さんが、何故あんなに仲よさそうなのだろう。
そう不思議に思ったものの、私が知らないような接点があったっておかしくないだろうと思った。

「飲みにでも行くか!」

「勘弁してくださいよ……」

「なんだあオイ?相変わらずノリ悪いなー!」

井山部長の押しが強すぎて、普段仏頂面な月宮さんが困っているのが可笑しかった。
珍しいものを見たな、と少し嬉しくなる。今度このネタでいじってみようか。
今度があるのかわからないけど。

それにしても、月宮さんは井山部長と話すためにわざわざ七階まで降りてきたのだろうか。
やっぱりそれだけ二人の関係は親密ということかもしれない。

「……じゃあ、失礼します」

「おお!またな!」

話を終えたらしく、月宮さんがエレベーターへと歩き、井山部長はこちらに向かってきた。
咄嗟に隠れることも出来ずに、角を曲がってきた部長と鉢合わせしてしまう。

「あれ、君は一課の」

「あ、はい!瀬名祐希です」

「そうそう瀬名ちゃん!なに、もしかして盗み聞き?」

ニヤッと笑いながらそう言われて、慌てて頭を下げた。

「す、すいません!たまたま通りがかって、そんなつもりはなかったのですが…」

「あー、いいよいいよ」

ひらひらと顔の前で手を振って、井山部長は笑ってくれた。
優しい人でよかったと、胸を撫で下ろした。

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