願うは君が幸せなこと

せっかく二人なのだから、これを機に色々聞いてみようか。
そう思い、意を決して口を開く。

「あの、井山部長。質問してもいいですか?」

「どうぞどうぞ。一週間しかこっちにいないから今のうちにね」

「部長が営業を初めて間もない新人の頃、悩んだことはありましたか?」

尋ねると、部長は興味深そうに私の顔を覗き込んで腕を組んだ。

「瀬名ちゃんは若い子の補佐をしてるんだったね」

「はい。少し、壁にぶち当たっていまして」

「そっかー。うんうん、そういう時期あるよなあ」

自分の若い時を思い出しているのか、部長は懐かしそうに目を細めた。
いくら優秀な人でも、きっと誰でも躓くことや立ち止まることがあったはず。
そしてそれを乗り越えられたからこそ、優秀だと言われるようにまで登りつめたんだと思うから。

「俺が新人の頃に意識してたことはな、とにかくなめられないことだ」

「え……」

「そうなったら終わりだからなあ、いかに相手に信頼させて、尚且つ尊敬させるかを考える。それが大事」

聞き覚えのある話だった。
思わず、井山部長の顔を凝視してしまう。

「あの……井山部長は、とても優秀な敏腕営業マンだったとお伺いしました」

「そう言われると照れるなあ。確かに若い頃はバリバリ契約とってたとってた」

「それで、私、伝説の営業マンの話を聞いたことがあるんですけど、もしかしたら井山部長が……」

思い切ってそう言うと、部長は驚いたように目を見開いたあと、ブンブンと首を左右に振った。

「それは俺じゃないな。伝説の営業マンって言われてんのはあれだろ?三年連続顧客獲得数トップ取ってたやつ」

「じ、じゃあ、部長はそれが誰かご存知ですか!?」

「知ってるもなにも、さっき俺と話してたの瀬名ちゃんも見てただろ?」

「………え?」

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