願うは君が幸せなこと
営業部に戻っても、頭のなかは月宮さんのことでいっぱいだった。
パソコンのキーボードを全速力で叩いても、気晴らしにコーヒーを飲んでも、夏美がこっそり飴を食べてるのを見ても、月宮さんのことばかりが頭の中をぐるぐる回っている。
こんなに胸が熱くなるのは、知ってはいけないことを知ってしまったからなのか。
普段の月宮さんからは想像出来ないことだからか。
わからないけれど、何故かちょっとした高揚感に包まれていた。
夏美も井山部長も帰っていった午後七時。
少しの残業を終えた私はついにいてもたってもいられなくなって、思い切った行動に出ることにした。
こんなに頭を占領されてしまっては、他のことに集中出来ない。
本人にすべて話してしまえば、少しはこの興奮が収まるだろうか。
帰る準備を済ませて、席を立つ。
鞄を肩にかけて、エレベーターへと向かった。
エレベーターの二十階のボタンを押したのは、これが初めて。
ぐんぐん上へと向かう箱の中で、だんだん緊張してきた。
二十階につくと、まだフロアのすべての電気が点いていた。
開発部の人はよく残業しているのだろうか。
いつも思うのだけど、上層階へ向かえば向かうほどメガネ率が増えるのはどうしてだろう。
ただの思い違いかもしれないけれど、開発部や
企画部はメガネをかけている人が多いと思う。
どの部屋で月宮さんが働いているのかわからないので、手前から一つ一つのぞいていく。
私のことを知らない人ばかりなので、目が合うとみんな不思議そうな顔で会釈をしてくれる。
というかそもそも、月宮さんがまだ残っているかどうかわからないのだ。
もしかしたらもう帰っているのかもしれないし、エレベーターが二つあるので行き違った可能性だってある。
それでもなんとなく、まだいそうな気がした。
すると、一番奥の部屋の中に、静かにキーボードを叩く人影が見えた。