願うは君が幸せなこと
「……悪かったよ」
月宮さんが、私に向かってそう言った。
「俺みたいな奴で、ごめん」
「………」
てっきり、話さなかったことを謝られたのかと思ったらそうじゃなかった。
憧れてたのが自分みたいな男で悪かったと、月宮さんはそう言ったのだ。
自分はそんな素敵な人間じゃないんだと、謝ったのだ。
無性に腹が立った。
一体誰にそんなことを言われたのだろう。
誰がそんな風に言ったのだろう。
ふと、以前千葉さんが言っていた言葉を思い出した。
”あの成績は嘘だと思ってる”
”不正があったんじゃないかって”
”そいつは自分で希望して部署異動していって、やましいことがあるって言ってるようなもんだしね”
やっと気付いた。
こんな風に思っている人は、多分千葉さんだけじゃない。
それを知ってるから、月宮さんはこんなにも辛そうで、悔しそうなんだろう。
「……馬鹿にしないでよ」
腹が立つ。ムカつく。
気が付けば、自分でも驚くほど低い声で月宮さんに言い返していた。
「私の理想を壊すと思ったの?私が、どこかの誰かと同じように、月宮さんで幻滅すると思ったの?」
「実際、そうだろ」
「一緒にしないでよ。私は、ずっと憧れてた人の正体が月宮さんだって知っても少しもショックじゃない。幻滅なんてしない!」
「……!」
この気持ちを、月宮さんにわかって欲しかった。
私だって悔しいのだ。
「前に相談に乗ってもらった時にわかった。月宮さんがどれだけ仕事に真剣に向き合ってるのか。だから、びっくりしたけど逆に納得した。……ううん、月宮さんで良かったとすら思った」
ぎゅっと握り込んだ手のひらに爪が食い込んで痛い。
気を緩めてしまったら何故か涙が出そうになるので、目の奥に力を入れて奥歯を噛んだ。