願うは君が幸せなこと

「さー、帰るか」

「…そうだね」

二人とも鞄を持って立ち上がる。

フロアを見渡せば、普段私とは縁がないような名前も知らない機械がたくさんある。パソコンの台数も営業部より多い。
ここが、いつも月宮さんが働いている場所。

彼が自分の仕事場を七階から二十階に移した時、どんな気持ちだっただろうか。

望んでいない成績から離れられる解放感があっただろうか。
それとも、ずっとやりたかったことが出来るという楽しみな気持ちのほうが大きかっただろうか。

それは月宮さんしか知らないこと。

秘密主義なこの人のことを、少しずつ知っていけたらいいなと、ふと思った。
それがただの興味本位なのか、もっと別の理由があるのか。
それは私だって、まだ知らない。


月宮さんと会社の前で別れて、一人家に向かう帰り道。

少し顔が火照っているのか、夜風が気持ちいい。
今ならどんな大変な仕事も、快く受け入れられる気がする。

聞きたいことは聞けてスッキリしたはずなのに、頭の中はまだ、月宮さんのことでいっぱいだった。

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