願うは君が幸せなこと
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「瀬名さん、今日の夜ちょっとお時間頂けませんか」
創くんからそう言われたのは、井山部長が来て四日目のことだった。
特に用事もなかったのでもちろん了承して、お互いに仕事を終えたら使う予定のない会議室で話そうと約束をした。
なんだか、思いつめたような顔をしていたのが気になった。
やっぱり話というのは、仕事のことだろうか。
私が彼のプライドを打ち砕くようなことをしてしまってから、創くんとの仕事は良くも悪くも淡々とこなしてきた。
前みたいに気軽に話しかけてこなくなったし、私も”可愛い男の子”として見るのをやめた。
もちろんお互いに仕事は全力で頑張っているつもりだけど、二人の関係という点では、溝が出来てしまったような気がしていた。
話し合わないと、と思いながらも、創くんのほうから私と距離を置いているのは明白だったので、切り出す勇気がなかったのだ。
だからこうして創くんのほうから話そうとしてくれたことに、内心とてもホッとした。
また前みたいに、創くんと楽しく仕事がしたい。
創くんも、そう思ってくれているのだろうか。
それとも、もう私にアシストされるのは嫌だと思っているだろうか。
もし、創くんのせっかくの前向きなところや一生懸命なところが、私のせいで潰れてしまうなら、私は自分のことを恨んでも恨み切れないだろう。
そんなことを考えながらこの日一日仕事をしていたからか、営業一課に様子を見に来ていた井山部長にバシッと肩を叩かれた。
「瀬名ちゃん、肩に力入り過ぎてるよ〜」
「井山部長」
「頑張り過ぎないように頑張ってね」
それだけ言って去っていく部長の背中を見ながら、なんだそれはと思った。
頑張り過ぎないように頑張る。つまり頑張るということじゃないのか。
でも、話しかけられたことで少し気が紛れた。
一度大きく伸びをして、再びパソコンへと向かった。