願うは君が幸せなこと
予定通り残業することなく、定時で仕事を終えることが出来た。
創くんの今日の予定は、午前中から昼過ぎにかけて外回り。
その後夕方までは企画部の人と打ち合わせをしているはずなので、創くんも残業はせずに済みそうだ。
外回りから直帰することも多いので、確かに話をするなら今日がチャンスだ。
一課に創くんの姿が見えなかったので、とりあえず一人で先に会議室へと足を踏み入れた。
長テーブルと椅子が置いてあるだけの部屋で、なんとなく端から二番目の椅子に座った。
何を言われるんだろう。
こんなときこそ先輩がリードするべきなのに、私はとても頼りない。
テーブルに頬杖をついて、小さく息を吐き出した。
このため息と一緒に私の駄目なところ全部、体の中から出て行ってしまえばいいのに。
少しして、創くんが会議室にやって来た。
「お待たせしてしまってすいません!」
「私もさっき来たところだよ」
「いえ、僕が呼び出したのに、遅れるなんて……」
本当に申し訳なさそうに息を切らしている創くんを見て、知らず知らずのうちに口角が上がった。
ああ、そうだ。この子はこういう人間なのだ。
いつも必死で、素直で、前を向いて。
そんな創くんだから、一緒に仕事していると楽しかったのだ。
「瀬名さん、これ好きでしたよね?」
ミルクティーの缶を私に差し出して、創くんがそう尋ねてきた。
わざわざどこかの自動販売機で買ってきてくれたらしい。
創くんの気遣いが素直に嬉しくて、ミルクティーを受け取った。
「じゃあ遠慮なくもらっちゃうね。ありがとう」
「はい!」
創くんが嬉しそうな表情になった。
今度、私も何か奢ってあげようと心に決めた。