願うは君が幸せなこと
一人になった会議室で、ミルクティーの缶を握り締める。
すぐに帰る気にはなれなくて、無意味に足をプラプラさせてみたりした。
”誰か気になる人がいるんですか”
創くんに聞かれたことが頭にこびりついて離れない。
どうしてあの時、すぐに否定出来なかったんだろう。
どうして”あの人”の顔が浮かんできたんだろう。
辿り着いた仮定に納得したくなくて、頭の中で必死に振り払った。
さっき、見えそうで見えなかった創くんの涙。
今頃、彼の頬を伝っているのだろうか。
自分が新人だった頃を思い出した。
私も創くんと同じような気持ちだったからだ。
毎日のように営業部で過ごすうちに、格好良くて優しくてエリートな千葉さんのことを好きになった。
何をしても様になって、話しかけられた時はドキドキしっぱなしで。
付き合えた日には、有頂天になった。
結果として千葉さんとは上手くいかなかったけれど、私にとっては恋愛だった。
この大きな高層ビルの中に、いくつの恋があるのだろう。
何階の男の人が何階の女の人に恋をして、どんな肩書きの人がどんな部署の人に恋をしているのだろう。
今日、そのうちの一つが終わりを告げた。
だけど創くんはこれから先、もっと素敵な恋をするだろう。
そして今日、新しい恋に気付きそうになった営業一課の社員が、ここに一人。
なんだかとっても悔しいので、まだ認めたくない。