願うは君が幸せなこと

「どうしても本社に異動したいってずっと希望出してる奴がいるんだよ。そろそろ叶えてやろうかと思ってな!」

井山部長はかなりお酒が進んでいるようで、いつにも増して饒舌になっているようだ。
私が聞いてもいいのかわからないような情報を、ペラペラと喋ってしまっている。

「では、今回の視察はそのために?」

「おっ、鋭いねー!美人な奴だから、これを機に営業部に配属させようかと思ったんだがなあ」

美人な…ということは、女の人のようだ。
女の人が意欲的に異動願いを提出するのは珍しいことなので、少し驚いた。

「でもやめた。そいつもともと開発部だからそっちに入れることにする」

「開発部へ……」

「もし話す機会があればよろしく頼むな!瀬名ちゃんと同い年だったと思うから」

「は、はい是非。楽しみにしてます」

こくりと大きく頷いて、井山部長は上機嫌でグラスを煽った。
あまり飲みすぎないで下さいねと声をかけ、席を離れることにした。

夏美が言ってた面白いことっていうのは、このことだろうか。後で確かめてみよう。

でもこれでスッキリした。
井山部長がわざわざ関西から一週間視察に来たのは、うちが一人受け入れられる状況かを見極めるためだったらしい。
もちろん、懐かしい営業部を覗きたかった気持ちも少しはあったんだろう。


宴会は終始賑やかに進み、井山部長の顔が真っ赤っかに染まった頃に、お開きとなった。

課長は部長に肩を抱かれ、そのまま二件目へと向かうらしい。
嫌そうな課長を見て、ほんのちょっと気の毒になった。

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