願うは君が幸せなこと
「祐希、会社近くまで一緒に行かない?」
そう誘ってくれた夏美に快く了承して、少し染まった顔を涼ませながら歩く。
ちょっとだけ酔っているかもしれない。今すぐ布団にダイブしたい気分だった。
「これで井山部長ともお別れかー」
「また会うかもしれないけどね」
そう言いながらも、寂しい気持ちになってしまった。あの大きな声が、明日からは聞こえないのだと思うと。
「仕事出来る人ってオーラがあるのよね。井山部長にしろ、千葉さんにしろ」
夏美がそう呟いて、私が思い浮かべたのは違う人だった。
確かに、他の人にはないオーラがある。
近寄りがたい、だけど近寄ってみたい、そんなオーラが。
「あ、そうだ。さっき聞いたんだけどね、本社に女の人が転勤してくるみたい」
そう話すと、夏美の目がキラキラと輝き始めた。
どうやら夏美もこの話をしたかったらしい。
「そう!その話が聞きたくて参加したようなもんなのよ!私も酔っ払った課長から聞き出しちゃった」
「課長……」
夏美が酔っ払うように仕向けたんじゃないの、とは恐ろしいので聞かないことにする。
「しつこく希望出してたらしいけど、どうしてそこまでして本社に来たいんだろうね」
「もともとこっちが地元で、関西に配属になって不満だったとか?」
「なるほど……」
開発部に配属されるなら、きっと私とはほとんど関わりもなく、話すこともないだろう。
そう思ったはずなのに、何故かざわざわと胸騒ぎがした。
言葉で表せない不安感が押し寄せてきて、思わず身を縮こませた。
「どうしたの?」
不思議そうに顔を覗き込んでくる夏美に笑顔を返して、なんでもないと小さく口にした。