願うは君が幸せなこと
千葉さんが頼んでくれた料理がテーブルに並ぶ。
どれも美味しそうで、お腹が空いていることを途端に思い出してしまった。
「そういえばさ、創はどう?上手くやれてる?」
そう尋ねられて、去年、千葉さんが創くんの教育担当をしていたことを思い出した。
「はい!すごく頑張ってますよ!創くんに、私もパワーをもらってるというか…」
「はは、そっか良かった。最近あいつのことなかなか気にかけてやれてないからさ。でも今思えば、祐希が補佐に付いてるなら心配することなんてなかったな」
「そんな、私なんて」
千葉さんはずるい。
そんな風に言われたら、今よりもっと頑張ろうと思ってしまうのに。
「創くん、あの”伝説の営業マン”に追いつくんだって言ってるんです。頼もしいですよね」
何気なくそう言った瞬間、千葉さんから笑顔が消えた。
「……ああ、いたね、そんな奴」
低い声で返されて、思わず体が強張った。
普段にこやかな千葉さんらしくない、冷ややかな表情だった。
なにかいけないことを言っただろうか。
「俺、思うんだけどさ。そんな奴実際いるわけないよね?」
「……え?」
「だってさ、入社したての新人が、この大企業でトップの成績なんて取れるはずないでしょ?ましてやそれを三年連続だなんて、ありえない」
くだらない、と言うように、千葉さんは頬杖をついた。
私はどう返したらいいのかわからなくて、ただ話の続きを待っている。
「だから俺、あの成績は嘘だと思ってるんだ。データの改ざんとか、何か不正があったんじゃないかって。ここは名の知れたIT企業だ。データをいじることくらい簡単にやってのける奴はゴロゴロいる」
「そ、そんな」
「まあ、別に確かめるつもりもないけどね。そいつは自分で希望して部署異動していって、やましいことがあるって言ってるようなもんだしね」