願うは君が幸せなこと

「……何か飲む?」

「えっ?いや、ううん!」

「あっそ」

もしかして月宮さんも私と同じように、何を話したらいいかわからなくて困っているのだろうか。
この空気、私もう帰ったほうがいいのかな。

ぐるぐると考えるばかりで、上手く口から言葉が出てこない。
俯いて、何もない白いテーブルを見つめていると、昼休憩中に見たあの光景が脳裏に浮かんだ。

「あー、その、さ」

「……?」

突然、月宮さんが口を開いた。
言い出しにくそうに、空気を吸ったり吐いたりしている。
どうしたのかと首を傾げると、月宮さんが組んでいた足を解いて座り直した。

「……見たんだろ、今日の昼」

「!」

すぐに、何のことかわかった。
まさにさっき頭の中に浮かんだ、月宮さんと転勤してきた女の人が道を歩いていたことだ。

きっと夏美が言ったんだろう。
あの人とはどういう関係なのか、噂好きの夏美はきっと問い詰めたんだろう。
それで言い争いになった?

「あ…、たまたまね、定食屋の窓から見えたの。すごく綺麗な人だね」

「おい、別に俺とあいつとは———」


その時、静かなフロアにコツコツとヒールの音が響いてきた。
どうやらこっちに向かって来ているみたいだった。

一体誰だろうと二人で顔を見合わせて、休憩所の入り口へ視線を向けた。


「あ、月宮くん、ここにいたんだね。探しちゃった」

「……咲野」

凍り付いたようにその場で固まってしまった。
月宮さんが咲野と言ったその人は、ちょうど今話していた女の人だったから。

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