願うは君が幸せなこと

「残業してたらどう処理したらいいのかわからない所があって、月宮くんに教えてもらいたかったの。まだ鞄が置いてあったから帰ってないだろうって思って」

月宮さんを見つけることが出来て心底嬉しそうな顔をしてる咲野さんは、近くで見るとますますの美人だった。
腰近くまである長い髪がサラサラで、細い足に華奢なピンヒールがとてもよく似合っていた。

「あら、人と一緒だったのね。ごめんなさい、邪魔しちゃって……」

今初めて私の存在に気付いたのか、咲野さんはゆっくりと私のほうを向いた。

「先日、開発部に転勤してきた咲野志歩(さきのしほ)です。よろしくお願いします」

「あ、いえ。……営業部の瀬名祐希です。噂通りとても綺麗な方なのでびっくりしてしまいました」

そう言うと、咲野さんは花が咲くように微笑んだ。
この笑顔で今までに何人の男性を虜にしてきたのだろう。

「別に、わざわざ俺に聞かなくてもいいだろ」

呆れたようにそう言う月宮さんに、咲野さんは負けじと言い返す。

「嫌よ、月宮くんに教えてもらうのが一番わかりやすいんだもの。ほら、早く来てよ」

ぐいぐいと月宮さんの腕を掴んで引っ張る咲野さんを、月宮さんはそれはそれは怖い顔で振り払った。

「やめろって。……後で見てやるから上に戻ってろ」

「本当?そんなこと言っていつも教えてくれないじゃない!」

二人の仲は、数日前に転勤して来て知り合ったようには見えなかった。
もっと親しくて、私よりずっと月宮さんと互角に渡り合っている。

そんな二人の姿を見れば見るほど、胸がキリキリと音を立てた。
押し潰されそうな気持ちになる、これは。

これ以上この場にいるのは無理だ、と思った。

「……私、帰るね」

「は?」

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