願うは君が幸せなこと
椅子の上に置いていた荷物を手に取って、二人に向かって軽く頭を下げた。
「おい、まだ話の途中……」
出て行こうとする私を引き留めるように、月宮さんが声をかけてくる。
思わずその声に振り返ると、また咲野さんが月宮さんの腕をがっしりと掴んでいた。
さっきよりも大きく心が軋んで、怪我もしていないのにズキズキと痛んだ。
「祐希!」
名前を呼ぶ声を背中に受けながら、足早に休憩所を出た。
エレベーターを待っていられなくて、階段で一階まで駆けおりる。
無様なヒールの音が耳について、余計に惨めになった。
今わかった。
咲野さんは、月宮さんのことを追いかけて本社にやって来たんだろう。
月宮さんを見る咲野さんの目は、尊敬と愛情に満ちていたような気がしたから。
会社のエントランスを通り、入り口の自動ドアを抜ける。
風が通り抜けるオフィス街には、まだまだ明るい光がいくつも灯っている。
ショックだった。
あの二人が並ぶ姿が、あまりにもしっくりきすぎていて。
見ていられなかった。
こうなれば、もう言い訳なんて思いつかない。
第一印象は最悪で、口が悪くて一言多い。
かと思いきや優しくて、守ってくれる。
困ってたら助けてくれて、実は熱い心の持ち主。
そんな人を、どうして好きになってしまったんだろう。