アハト
オトコと少女とアハトは白の橋を歩く。


僕は引き返したい。
けど…道はない。

オトコは橋の端により下をのぞく。
橋と少女とアハトと塔以外に色はなく橋の下は深いのかすぐそこに地面の様なモノがあるのかまるでわからない。

音もなく色もなく何もない、オトコはそこへ行きたかった。
すう、と橋の外へ引き込まれる。
オトコは目を閉じる。

ぼくは…

その時、音のなかった世界にはむごいと言える程の轟音が鳴り響いた。

オトコは橋に引き戻る。
オトコの足下から先、橋が崩れ去っていく様が目に飛び込む。

少女がアハトをオトコに投げよこす。
オトコはアハトを抱きかかえ少女の白い手をつかまえる。

膝を付き、前のめりの姿勢で少女の命をつなぎ止める。

『よかった。今引き上げる』
オトコは腕に渾身の力を込めようとした。

『ライフ』

少女は辛くもなさそうに言葉を投げた。

『わたしもあなたの心の一部。ライフ…あなたが戻ればわたしも戻れる。』
『行ってライフ。あなたの為に。』

少女は静かにオトコの手をほどいた。
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