アハト
痛みはいつまで待ってもやって来なかった。

オトコの手はいつの間にか自分自身を抱いていた。
恐る恐る白い橋に目をやる。

目を見張る程の赤の泉にアハトが倒れていた。

灰色の何かは再度オトコに向かって来た。
赤い目だけをかっと見開きアハトを飛び越え鎌を振り上げる。
オトコは今度は真っ直ぐに立ったままそれを見据え、月色の鎌を受け止めた。

灰色の何かは驚愕の表情を見せる。
オトコは鎌を片手で支え、その下から不敵な笑みを見せた。

瞬間、灰色のそれは淡い光となって消えた。
光降り注ぐ中オトコはアハトに歩み寄る。

『ぼくは…』
『これほどまでに進みたかったのか』
自然と言葉がこぼれる。

オトコはアハトの小さく黒い孤独な体を抱きしめた。
強く、強く。

アハト…

たどり着きたい。

ライフ見ててくれ。

アハト、必ずまた会える。

オトコは…
ぼくは走った。
< 23 / 25 >

この作品をシェア

pagetop