いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。


やがて晴れて医師になり白衣に身を包んだ兄さん。

自分のことのように俺は誇らしかった。


そんな兄さんが事故で死んだと聞いたのは、俺が中2の春だった。


それからすぐだ。
俺を取り巻く環境が180度変わったのは。


父さんは、おもちゃだったはずの俺を突然陽のあたる場所に置き、期待を寄せてきたのだ。

まるで主役に躍り出たかのごとく。



『医院長にはまだ秘蔵っ子が居たんですね』


『実はそうなんだ。ほら、柊哉挨拶しなさい』



秘蔵っ子、なんて。

目をかけてくれたこともないくせに。

突然大勢の人に俺という姿を見せ、挨拶させた。


まるで時期がくるまで隠していたんだ、とでも言いたそうな父さんに疑問を覚えながらも、やっと自分に回ってきたチャンス。


脇役だった俺が突然スポットライトを浴び、イヤな気分にはならず。

志し半ばで逝ってしまった兄さんのためにも、俺が頑張って跡を継ぐんだと自分を奮い立たせた。


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