いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。
汗ばんだ手のひらを握りしめながら見据える父さんは、兄さんの面影を呼びおこさせる。
母さん似の俺とは違い、兄さんは父さんにそっくりだった。
そんなところにまでも兄さんとの違いを感じ劣等感を抱いてきた。
息が、つまる。
……早くここから立ち去りたい。
軽く会釈をして、リビングを出ようとしたときだった。
「……そうだ」
グラスに軽く口を付けた父さんが、俺に視線を向けた。
「大山先生のところのお嬢さんだが、お前と同い年らしい」
今日初めて俺と視線を合わせたのを見ると、これが本題のようだ。
"大山先生"とは医師ではない。
医師の世界では頂点だと思っている父さんが、同じ医師に敬称なんてつけないのは百も承知。
父さんが"先生"と呼ぶのは政治家や弁護士だ。
次の総理大臣候補らしく数年前から親交があるらしい。
「今度、一席設けるから話でもしてみたらいい」
静かに吐き出すその物言いは紳士そのものだが、俺には脅しにしか聞こえなかった。