いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。
『一流の高校、一流の大学で学ばせてもらっておきながら、息子までたぶらかすとはな』
『すみませんっ……』
『息子のためを思うなら、今すぐ息子の前から姿を消せ』
『すみませんっ……』
『十分な額だ。これで留学でもしたらいい』
机の上に放り投げられた分厚い封筒。
ひたすら『すみません』を繰り返しながら父さんの前で涙を流していた女性。
そのときも、父さんはこうやってウイスキーグラスを片手で揺らしていた……。
偶然目にしてしまったいつかの光景が脳裏に映り、俺はぎゅっと目を瞑った。
中学生の俺には、ドアの隙間からそれを覗くだけで何も出来なかった。
あのとき俺が飛び込んでいたら、何か変わっていたんだろうか――?
そして、知り得た事実を兄さんに伝えていれば……。
……っ、
「予習があるので、これで失礼します」
苦虫をかみつぶしたような顔をしている父さんに頭を下げ、俺は二階へと上がった。