いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。



普段から冷たく無気力な瞳に強引で横柄な態度。

恵まれて育った人のどこにそんな不満があるんだろうと、贅沢だとすら思った。


でもそれは大きな勘違いで。



「……ど、どうして……」



お兄さんが自殺、だなんて。

お父さんがそれを隠した、だなんて。


なにに対して"どうして"なのか自分でもあやふやな問いかけに、黒崎くんは迷いもなく真っ直ぐ声を発した。



「後継者だと鳴り物入りであの病院の医者になった兄さんの環境は劣悪だった。派閥や嫉妬が渦巻く院内で、兄さんの心はボロボロだった」



苦悩に満ちた視線があたしと交差する。



「でも彼女の支えがあったからなんとか耐えてこられた。

そなのに、彼女まで兄さんの前から去って……兄さんは、それを苦に死んだんだ……」



お兄さんの前から去った……。

その彼女も心変わりをしてしまったんだろうか。


だとすれば今のあたしと紙一重。

決して他人事ではない話に、無意識に視線を逸らした直後。

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