いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。



「父さんは、病院のために兄さんを財閥の娘と政略結婚させるつもりで、彼女に金を渡して別れさせたんだ」


「えっ……、お金を……?」



そんなことが実際に起きるの?


まるでドラマの中のような話に、手も足も、体全体がふるえる。

椅子になんかジッと座っていられないくらいに。



「……あり得ねえ話だろ」



静かに、でも熱く。

歯をグッと噛みしめるその姿は、お兄さんを失った悲しみとお父さんへの苛立ち。


今、黒崎くんの中では、どちらにも負けないふたつの感情がせめぎ合って。

……きっと葛藤しているんだ……。


苦しみに溢れたそんな姿を、あたしはなすすべもなく瞳に映すだけ。



「兄さんは彼女が去った本当の理由を知らない。兄さんの日記には、彼女に男が出来てフラれたという苦悩が残っていた」



……彼女さんは、お父さんに言われるまま身を引いて……誤解したままお兄さんは……。


そのすれ違いを想えば、心臓の奥から突き上げるような痛みに襲われる。



「だけど、俺は知っていたんだ」


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