いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。
「黒崎を好きなままでも構わないよ」
「……っ、」
誰か、その人、そいつ……今まで濁していた名前を、律くんがはじめて口にした。
あたしが"好きな人"と言ったことで、黒崎くんに対抗する気持ちが前に出たのか、声にも力が入った気がする。
「…………そんなこと……出来るわけないよ……」
黒崎くんを好きなまま律くんと付き合うなんて、そんな都合のいいこと出来るわけない。
どうしてそこまで優しいの?
こんなひどいあたしに、文句のひとつ浴びせたって構わないのに。
むしろ、振ってくれて構わないのに。
「……だよな、ストーカーかっつうの……。そもそも俺のせいだよな……」
悔しそうに後悔を滲ませて、屋上と同じ言葉をつぶやく。
「小野先生の提案なんて断っておけば良かった。そしたらこんなことにならなかった……」
今度こそ項垂れてショックを隠さないその様子に、こみ上げてくるものを抑えられない。
「……そんなこと言わないで。律くんは間違ったことなんてしてないよ。小野先生は、確実に律くんに救われてたはず。あたしだって、そんな優しい律くんが好きだったんだから……」
ボールが当たって、家まで送ってくれたことがあたし達のはじまり。
困っている人を放っておけない、見捨てられない。
それが律くんなんだから。
あたしの心変わりは、律くんが小野先生に与えた優しさとは無関係。
理由を辿ったら避けて通れないエピソードかもしれないけど、イコールじゃない。
「そう言われると救われる。……なんか、往生際悪くてごめんな」
無理して頬をあげようとしている姿に胸が締め付けられた。
こんなにも真っ直ぐ想いを向けてくれる律くんを、どうしてあたしは想い続けられなかったんだろう。
告白されて舞い上がって。
恋って気持ちを知って。
失いたくなくて、しがみついてた。
その気持ちが先行しすぎて、律くんを好きだという気持ちをうまく育てられなかった。
だから、こんなにも簡単に心が動いてしまったんだ。