いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。



「ごめっ……律くん……ごめんなさいっ……」


「泣かないで……」


「……っ」



あたしが涙を拭うより先に律くんの親指が頬に乗る。

そして頼りなく浮かせたままのあたしの手を、そっと握ってくれた。



「今までほんとうにありがとう。美優と付き合えて幸せだった」


「あたしもっ……ありがとう……っ……」




今日、ひとつの恋が終わった。


あたしの心変わりを一言も責めず、最後まであたしに想いを傾けてくれた律くん。


優しさと温かさに包まれたその手を、あたしはずっと覚えておきたいと思った。





***



「柏木、ほんっとごめんな」



いつも明るい和久井くんが、あたしの隣でしゅんとしている。



「気にしてないから大丈夫だよ?」


「でも……」




あたしと律くんが別れたことは、瞬く間に校内に広まった。

そしてあたしはそれ以降、大半の女子から冷たい視線を投げられている。


この破局は律くんファンにとって朗報なはずなのに、彼女たちの顔が険しいのは、振ったのがあたし……というウワサが原因。


あたしが振られたことにしておいてくれて良かったのに、和久井くんが『失恋の傷は新しい恋で癒せ』なんて派手に合コンを開催したみたいで。

そんな話がどこから漏れて、今まであたしに向けられてやっかみが批難へと変化したのだ。

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