いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。
あの答案用紙は、職員室で誰かが偶然見つけたらしい。
0点の答案用紙など黒崎くんに返せるはずもなく、きっと保管していたんだろう。
それを国語の先生がうっかり裏紙に使用したとかで表に出たんだと誰かが言っていた。
それでも理事長の息子という肩書きを恐れてか、PTAに報告するとか生徒会の議題に上がるとか、そんな公な問題には発展しなかった。
それから数日が過ぎたある朝。
前から歩いてきた男子が、黒崎くんの机の横を通過する際わざと机に手を伸ばして、教科書とペンケースを床に落とした。
口の空いていたペンケースからは、中身が派手に飛び散る。
「あ、わりー」
ヘラッと口先だけで謝る男子はそれを拾うでもなくそのまま去っていく。
……そのかわり、陰湿な攻撃は収まらなかった。
今まで腫物扱いだったみんなが、あの一件で手のひらを返したのだ。
弱みを握ったのが強みなのか、一斉に黒崎くんへの態度を激変させた。
黒崎くんは文句を言うでもなく無言で席を立ち、それらを拾いあげる。
悔しくないの……?
そんな黒崎くんを見て気の毒だと思う反面、腹立たしさもあった。
反発し続けるのかと思ったあの日の態度とは裏腹に、なにをやられてもその後は一切刃向かわず。
だから、男子たちも調子に乗る。
イジメが肥大していく様を、まざまざと見せられているようだった。