いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。
***
悪いことは一切伝わらないのに、今日のことが父さんの耳に入るのは早かった。
家に帰ると、まだ夜も深くないのに珍しく父さんが居た。
「立派だったな」
ウイスキーグラスを回しながら、機嫌よさそうに口元を緩めるその姿に、……べつに父さんを喜ばそうとしたわけじゃねえし……
なんて心のなかで悪態をつく俺は、やっぱり父さんの前では素直になれない。
兄さんへの気持ちだって、俺の目で確かめたわけじゃない。
ただ、俺の本性を知られている……そう思ったら、もう怖いものなんてなかった。
「一つ聞いてもいいですか?」
父さんが目線をあげる。
「兄さんが死んだとき…………悲しかった……?」
久しぶりに敬語を取っ払ったのは、父さんと兄さんと俺、その距離を近くに感じたかったから。
はじめて兄さんのことを口にした俺を見る父さんの目は……次第に赤く染まっていった。
アルコールのせいじゃない。
兄さん……"黒崎涼成"という大切な存在に、心が震えた証拠だ。
「…………ごめん」
悲しくなかったわけなんかないよな。
今の父さんの表情をみれば、言葉にする以上の想いが溢れていたから。