いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。



美鈴から聞いた気持ちを思えばこそ、心の傷をえぐっているのは俺だ。

でも、この目でそれを知ることが出来ただけで、俺の心の中はまた軽くなった。



「なら私も一つ聞く。柊哉は将来、なにになりたいんだ」


「えっ」



それを俺に聞くのか……?

俺には決定権なんかなく、意志なんて一度も尋ねなかった父さんが、俺に将来のことを聞いている……。

不思議な感覚に陥りながらも、俺は迷いのないその答えを口にした。



「……医者だよ……決まってんじゃんか……」



改めて心に決意を刻むように。


決められたレールに黙って乗るんじゃなくて、俺の意志でそのレールに乗るんだ。



「……そうか。それを聞いて安心したよ。あの病院を柊哉に継いで欲しいと思っているのは、心の底からの願いなんだ」



赤く染まったままの目が、俺を見ている。



「柊哉は……私の……大切な息子だからな……」



兄さんの代わりじゃなくて。

はじめて俺を"俺"として見てくれた気がした。



「俺、がんばるよ。父さんが大切に築き上げた病院を……俺がちゃんと継ぐ。

……でも、まだ俺は大人じゃない。それまでは父さんがしっかり病院を守ってくれよ」



柏木に言われたように。

柏木がそうしたように、俺も声をあげる。

想いは言葉にしてはじめて伝わるんだ。


照れくさくて生意気な言い方をしてしまったけど。

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