いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。



「…………ああ」



深くうなずく父さんの目には、光るものがあった。

血もない涙もない、そう思っていた父さんにもちゃんと人を想う気持ちがあったんだな。



「俺には……大切にしてやりたいと思ってる女がいる……」



生意気ついでにもう一言。


これだって俺には大きな勇気だった。

そして、自分自身の気持ちを再確認した瞬間。


不埒なキスからはじまった、俺と柏木の関係。

言いたいことも言えずに我慢してる柏木を、自分に重ねてイラついた。

なのにいつの間にか、勝手にひとりで強くなって。

俺の心を激しく揺さぶるなんて生意気なことして……俺の傷口に、優しく触れてくれた。


俺を……見てくれた。



───もっと、柏木を知りたい。



俺だってこの気持ちがなんなのかまだあやふやだ。

ただ、大切にしてやりたい、そう思ったのはウソじゃないんだ。


これが……好きって気持ちなのかもしれないな……。



「高校生の分際で……」



こんな時ばっかり俺を高校生扱いする父さんは、そのあと目を細めて。



「だったら……大切にしてやりなさい」





現実から目を背けるために、いっぱい虚勢を張った結果。

すれ違って誤解して。

でも言葉があれば、必ずわかりあえる日が来るんだな。

俺と父さんは……かなり遠回りをしてしまったが……。



今まで寒さしか感じなかった広いリビングに、はじめて温かい風が流れた。


きっとどこかで見ている兄さんも笑ってくれている、そんな気がした。


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