いつか、このどうしようもない想いが消えるまで。




「こっちだな」



住所を告げると、黒崎くんがスマホで位置検索をして行く道を指す。



夜風がすこし冷たい。


昼間は過ごしやすかった薄手のワンピースも5月の夜には肌寒い。

その上、慣れないヒールのせいで脚も痛いし。

もう……散々……。


並んで歩くあたしたちに会話はない。

コツコツコツ……静かな住宅街に、ヒールの音だけが響いてく。


それでもべつに何も思わない。

律くんと一緒にいて沈黙になると、なにか話題を探さなきゃと焦っちゃうんだ。

つまんない女だと思われたくなくて。

だけど黒崎くんと会話がないのは当然といえば当然で、ちょっとおかしいけど気が楽だった。

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