もしもの恋となのにの恋
「・・・夏喜、俺は本当に千鶴のことが好きなんだ。だから叶わない恋だと知っていても俺は千鶴のことを思うし、千鶴の幸せを何よりも願う。俺は千鶴が幸せならそれでいい。だから俺はお前を許さない。千鶴を傷つけたお前を俺は許せないし、許さない」
俺はハッキリとそう言って夏喜を見つめた。
夏喜は泣いていた・・・。
俺の隣で千鶴が『夏喜・・・』と心配そうな声を漏らす。
これは復讐だ・・・。
何者かが俺の耳元でそう囁いた。
その声は俺のものによく似ていた。
そんな気がした・・・。
「・・・なら、秋人は私に・・・嘘を吐いたんだね?私のこと・・・ずっと好きだったって言ったのに・・・」
俺は遠い記憶を探った。
嗚呼、そんなことも言ったっけ・・・。
嗚呼、確かに言った。
チラリと俺を見てきた千鶴の視線は冷たかった。
まぁ、それも仕方のないことだ。
覚悟はしていたさ・・・。
俺は声なくそう言って大きな溜め息を吐き出し、また大きく息を吸い込んだ。
秋の冷たい空気が肺の中をくすぐり、俺は不様に咳き込みそうになったがなんとかそれを堪えた。
夏喜は全てに絶望したかのような顔をしていた。
だが、夏喜のその目にはおぞましい業火の火がごうごうと灯っていた。
嗚呼、壊れる・・・。
俺は無意識のうちにそう心の内で呟いていた。
「・・・何でそんな嘘、吐いたの?・・・ねえ、教えて?秋人・・・」
まるで幽霊の囁きのように夏喜が聞いてくる。
俺は小さな溜め息を吐き出した。
本当のことを言おう・・・。
そう心の内で呟いて、そう決めた・・・。
「・・・さっきも言ったが俺はお前を許せないし、許さない。・・・お前は千鶴を傷つけた。俺は・・・千鶴を傷つけたお前に復讐をしたかったんだ」
嗚呼、もう後戻りはできない・・・。
もう終焉の鐘はけたたましく鳴り出した・・・。
もう誰にも止められない・・・。
例え、それが神であったとしても・・・。